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ASCO(米国臨床腫瘍学会)2015参加報告

 日本癌治療学会から、PAL(Patient Advocacy Leadership)プログラムのスカラシップ(奨学金)を得て、アメリカ・シカゴで5月29日から6月2日まで開催されたASCO(米国臨床腫瘍学会)に参加してきました。昨年参加した2名と今年新たに参加した私を含む2名の計4名が選ばれました。渡航前には他に誰が行くのか、手続きはどうするのかまったくレクチャーもなく、航空チケットやホテルの手配、ASCO参加のweb登録などもすべて自分で行い、かなり不安でした。本当は、昨年選ばれた2名が新しい2名をアテンドする予定でしたが、6月1日に厚労省で開催されたがんサミットに参加するため、昨年来た2名は初日だけ参加し、日本に帰国してしまい、私達はほとんど放置状態でしたが、セッションに参加したり、ポスター展示や製薬企業ブースを見学したりして、あっという間に5日間が過ぎたという印象です。

 羽田から、妻の墓参りにバンクーバーに寄ってから、シカゴに入りました。シカゴは、25年ぶり2回目。ミシガン湖に面し、昔ながらの建物と新しいビル群が混在していて、美術館や博物館はもとより、夜はブルースやジャズが気楽に聴ける魅力のある街です。ASCOは、がん治療の臨床においては世界で一番大きな学会で、3万8千人もの医師、研究者、製薬企業等が参加していました。残念ながら、PALプログラムには、アメリカなどのサルコーマの患者会の人はいませんでしたが、Sarcoma Allianceという患者会が、ブース出展(といっても机一つ出しているだけで、ほとんど人も座っていなく、最終日に初めて1人会えたくらいです。)していました。今後連絡を取っていきたいと思います。PALラウンジは快適で、ソファーがいくつも置かれ、飲み物や軽食だけでなく、朝食や簡単な昼食も用意されていました。私は事前にオンラインで昼食チケットを購入してしまいましたが、その必要はありませんでした。

 ASCO初日の午前中は、市内のホテルで開催されたSARC(Sarcoma Alliance for Research through Collaboration)のミーティングにも参加しました。日本でもお会いした、Dr. Robert MakiとDr. Robin Jonesに会うことができました。
 
 今回のASCOでは、今まで怪しいということで、あまり見向きもされなかったimmunotherapy免疫療法がシンポジウム(大会場)で発表されていました。肉腫については、教育セッションはガラガラでしたが、いくつかの治験の結果が発表されることもあり、ポスターセッションや治験結果発表の口述セッションは、ヒートアップしていました。31日午前中のポスターセッションでは、肉腫だけで70ものポスターが展示され、西田先生、楢原先生が演題をポスター展示されていました。さらに、1日の夕方の肉腫の口述セッションでは300人くらいの会場がすぐに満席になり、急遽あと2部屋追加し同時中継をしていました。分子標的薬を含む抗がん剤の標準治療は、ASCOで決まると言われている所以がよくわかりました。

 また、日本の学会では薬事法の関係で、患者が製薬企業のブースには立ち入ることはできませんが、ASCOでは誰でも入れ、質問もできました。

 今回の私の主な目的は、肉腫の治験情報の習得とアメリカ肉腫患者との交流でしたが、後者の方は残念ながらほとんど達成できませんでした。

 6月1日の肉腫の口述セッション内容について簡単に報告します。

1)Gemcitabine(ゲムシタビン)+Docetaxel(ドセタキセル)の第Ⅲ相治験

 Dixorubicin(ドキソルビシン)と比較した結果、進行性軟部肉腫に対する初期治療としては、24週進行なしの割合においては、特に優位性はなかった。しかし、ドキソルビシンの方が心拍数(HR)の優位性はあった。また男性に対しては、ドキソルビシンの優位性がいくつかあった。

2)Olaratumubオララチュマブ(IMC-3G3、PDGFRα抗体、イーライリリー社)

 130人の進行軟部肉腫患者対象のDOX(Doxorubicin)単体およびOlaratumab併用の第1b/Ⅱ相治験の結果で、Olaratumab併用だと生存期間が10.3ヶ月改善されたとの報告があった。今後第Ⅲ相治験に進む予定。

3)eribulinエリブリン(309試験、ハラヴェン、エーザイ社)

 昨年、乳がんに対する第Ⅲ相試験でいい結果を出したが、今回594人の進行平滑筋肉腫とADI(脂肪肉腫)患者に対するeribulin(エリブリン)とdacarbazine(ダカルバジン、協和発酵キリン)の第Ⅲ相比較試験を実施し、エリブリンがOS(全生存期間)13.5ヶ月とダガルバジンの11.5ヶ月と比べて、延長したとの報告があった。エーザイはデータを基に、乳がんに次ぐ2つ目の適応として、2015年度上期中に日本、米国、欧州で適応拡大の申請を行う方針。

4)Trabectedinトラベクテジン(大鵬薬品工業)第Ⅲ相治験

 進行脂肪肉腫と進行平滑筋肉腫患者に対するトラベクテジンとダカルバジンの比較試験を実施し、トラベクテジンについて、PFS(無増悪生存期間)およびDDC(病状コントロール期間)が改善された。(PFS:4.2ヶ月vs1.5ヶ月)

5)regorafenibレゴラフェニブ(バイエル)第Ⅱ相治験

 平滑筋肉腫とその他の軟部肉腫に対するダブルブラインド法、無作為、プラセボ(偽薬)を実施した結果、PFS改善(他の肉腫に比べ3.7ヶ月vs1.0ヶ月)、OS改善(平滑筋肉腫において)、毒性は予見・許容ができた。2015年末までに最終分析がでる。

6)肉腫患者の新しい治療に対しての示唆

・コスト比較 エリブリンvsダカルバジン $5,511 vs $78 コスト高で評価が難しい
・PFS比較 トラベクテジンvsダカルバジン 3か月改善の意味がそれほどあるか
・レゴラフェニブについては、評価がまだ早い

以上、ご報告まで。


大西啓之

NPO法人キュアサルコーマ 理事長